2-1『身柄確保』


―15分前―

露草の町と凪美の町を結ぶ道のほぼ中間地点
道を外れて数百メートル離れた所にある木立の影に
旧小型トラックが姿を隠していた
トラックには前席に自衛と同僚、後席に隊員C、隊員D、支援Aの姿がある

同僚「…」

運転席に座る同僚は、ハンドルの上に手を置き、
指をしきりにトントンと動かしていた

自衛「やけに落ちつかねぇようだな」

助手席から自衛がそう尋ねてきた
自衛はというと小型トラックのボンネット上に足を放り出して
踏ん反り返っている

同僚「まぁな……なぁ、一曹は本気なのか?この作戦は少々、
     いやかなり問題じゃないか…?」

自衛「本気じゃなきゃ、こんな所までわざわざ来るかよ。
     他に手があるか?」

同僚「そりゃそうだが…クソ」

同僚はシフトレバーの近くに置いてあるガムの包みに手を伸ばし、
ガムを一粒口に放り込んだ

隊員C「あ、オイッ!そりゃ最後の一個だぞ!」

瞬間、後席から隊員Cの文句の声が飛んできた

同僚「え?あぁ…すまん」

隊員Cの発した文句に、同僚はガムを噛みながらも謝罪する

隊員C「お前ッ…!最後の一個なら聞けよ!そんなだからお嬢様が抜けてねぇって
     言われんだよ!」

同僚「分かった!悪かったよ…!」

自衛「くだらねぇ事で騒ぐな」

その会話に割り込むように、無線に通信が入る

補給『各車へ、こちらアルマジロ1-1。聞け』

隊員D「組長、来ましたよ」

自衛「あぁ」

補給『ナッシャー1-2から通信、目標が町の門を出たそうだ』

支援A「フゥ、お出ましだぜぇ」

補給『目標は馬車が一台。軽装の騎兵9騎と、重装の騎兵4騎が前後を護衛しているそうだ。
     作戦は当初の予定通りに行う。各車、備えろ』

自衛「ジャンカー4、了解。おし、お前ら準備しろ。作戦は頭にちゃんと入ってるだろうな?」

支援A「あー、シキツウが奴等を通せんぼして、俺等がその止まったお馬ちゃん達のケツに
     ビンタかましゃいいんだろ?」

隊員D「奴等の隊列が動けなくなった所を狙って、高機(高機動車)が突入。
     お偉いさんを確保」

支援A等はそれぞれ武器の弾倉を確認しながら、作戦の手順を反芻する

隊員C「ハッ!要するに誘拐って分けだ!」

自衛「まぁ言い方は好きにしとけや。捕獲目標はおそらく馬車の中だ。
     生け捕りが目標だからな、撃つ時は馬車を射線から外せ。いいな?」

隊員D「気をつけます」

同僚「…村人の安全のためには、やるしかないのか」

小さく呟いた同僚は、自分の小銃を確認を終え、
小型トラックのエンジンをかけようとする

自衛「同僚、ガムは吐いとけ。舌噛むぞ」

だがキーを掴む前に、自衛にそう声を掛けられた
自衛は指で同僚の口元を指し示している

同僚「ん?あぁ、大丈夫だ。これくら…んむッ!?」

言いかけた同僚だったが、言い終わる前に彼女の口に自衛の指が突っ込まれた
自衛は指で同僚の口内のガムを探り当て、掴みだした

同僚「ぷぁッ…お、お前なッ!」

自衛「前の演習で運転中に舌噛んで、ピーピー泣き喚いたのを忘れたのか?吐いとけ」

自衛は指先で掴み出したガムを車外に投げ捨てた

同僚「せめて、先に口で言えよ…!」

自衛「どうせ御託並べて渋ったろ?」

言いながら自衛は同僚の上着で自分の指を拭く

同僚「って、オイッ!」

隊員C「ざまぁ見やがれ」

運転席の後ろに座る隊員Cが、ガムの恨みなのか
やり取りを眺めながらそう吐き捨てた

隊員D「今日もくだらん事でギスギスしてら」

隊員Dは車内の様子に呆れながら、小型トラック中央に据えつけられた
九二重に着く

自衛「おら、エンジン掛けとけ」

同僚「最悪だ…」

同僚は口を濯ぐための水筒を探しながら、小型トラックのキーを回す
エンジンがかかり、小型トラックは周囲の風景に合わない、異質な音で唸りだした
自衛は後席の隊員C等へ振り向き、作戦の確認を続行する

自衛「細かい所を確認するぞ。シキツウが敵の隊列を止めたら、
     俺達は隊列の後方に展開する。
     隊員D、お前はジープに残って重機で援護しろ」

隊員D「了解」

自衛「他は俺と来い。降車して隊列後ろの敵を排除、
     高機の第1分隊の連中が、標的をとっ捕まえるのを援護するんだ」

隊員C「そううまく行くのかねぇ?」

隊員Cは鼻で笑いながらそう言う

自衛「うまく行くようにやるんだ。気合が入るよう、敵の前にお前のケツを
     ビンタしてやってもいいんだぞ?」

隊員C「分かったよ、クソッタレ」

支援A「ゲハハッ!怖ぇかーちゃんを思い出したか、隊員C!?」

隊員C「うるせぇ」

隊員Cが吐き捨てると、会話の切れ目を狙ったかのように、無線に通信が入った

補給『各車、目標が作戦区域に入った。チャプター開始、チャプター開始』

同僚「ッ!…ペッ、来たか…」

口を濯いでいた同僚は、水を車外へと吐き出すと
鉄帽を直してからハンドルを握る

自衛「よぉし同僚、出せ」

同僚「分かった」

自衛が指示を出し、同僚がアクセルを踏む
小型トラックはより強い唸り声を上げ、木立の影を飛び出した

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